氷の世界(2)

第ニ話「かき氷のメリーゴーランド」


そこに広がっていたのは、色とりどりの巨大なかき氷たちがメリーゴーランドのようにくるくる回りながら、天空の城ラピュタのごとく空中に浮いて空一面を埋め尽くしているという、なんとも信じがたい光景だった!


Jesus…


「氷の世界はすぐに溶けるから、消えないうちに、お一ついかが?……坊ちゃん?」

婆さんの声にすら気付かずあっけにとられていた俺は、やっと意識が戻った。

「ここは何なんですか?!」

「氷の世界だよ」

「それは知ってますよ!そうじゃなくて…」

「そうじゃなくて?」

「…」

また婆さんは、ニヤッと笑った。


説明しよう。さっきから俺がよく口にする「Jesus」は単なる口癖で、神も仏も信じない無宗教者でありながらクリスマスにはJesusの誕生日を祝い、お正月には初詣に行くという類のどこにでもいる典型的な日本人である俺は、現代科学で説明できないことは何一つとして無いという信念を持っていた。だから、目の前の光景を鵜呑みにすることはどうしてもできなかったのだ。

でも不思議なことに、俺はその疑問を上手く言葉にできなかった。何か言おうとすると舌がもつれるだけだ。

俺は既に、魔法にかけられていたのだ!


「……イチゴ味」

「少々お待ちを」

婆さんはいきなりアンパンマン(もしくはストレッチマン)が空を飛ぶ前にするあのポーズをしたかと思うと、忽然と姿を消した。

「?!」

左右を見渡したが、婆さんの姿が見当たらない。

すると遠くからあのしゃがれた声が聞こえてくる。しかもその声はどんどん大きくなってくるではないか。

「……坊ちゃ〜ん!!!」

目を凝らすと、なんと婆さんは巨大なかき氷の上に乗って全速力でこちらに向かってきているではないか!


「あ〜〜〜〜〜れ〜〜〜〜!!!」

ドーン!!!!!


「あいたたたたた、また不時着かいな〜!ま、かき氷の方は無事でなによりじゃ。前みたいにこっぱ微塵にならずに済んだわい」 

「Jesus…」

婆さんはしばらく痛そうに腰をさすっていた手を離してさっと懐に入れると、海の家などでお馴染みの青い波の上に赤い文字で「氷」と書かれたカップとスプーンを取り出し、それで巨大なかき氷をカキカキして俺に差し出した。(語彙力)


「さあ、お食べ」

今、俺の前には、きれいなピンク色をしたふわっふわのかき氷が差し出されている。

まるで高価な宝石でも抱えるかのように両手でそれを受け取り、スプーンですくって一口食べた。

「どうじゃ?」

婆さんが俺の顔を覗き込む。

「こ、これは…」


(つづく)


☆原作者の方からお褒めの言葉をいただきました。

http://icutah6.livedoor.blog/archives/5918865.html

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