徳島・日和佐
トンネルの向こう側から、誰かが手を振っていた。
「おーい!さっき隣におったやろ〜」
徳島の日和佐にある定食屋に入ったとき、隣の席に座っていたおっちゃんだった。
「店の前に置いてるの見て気になってたんやけど、後ろに何積んでるん?」
「ギターです!」
「えー?!ギタァァァア?!?!」
そんなに驚かなくても、というほどに驚かれた(笑)
その人は奈良の出身で、奥さんが徳島の宍喰出身なのでこっちに来たという。もともとバスの運転手をしていたのだがコロナで会社が潰れてしまい、今は早朝に新聞配達を、その後は魚の鱗を取ったり腸を取って捌く仕事をしてるという。そして今、3つ目の仕事を探していると。
「めちゃくちゃ働き者ですね!」と言うと、その人は理由を話してくれた。
「働かんとやばいねん。うちの兄貴ら二人とも自殺しよんよ。癌の告知されて、よう耐えられへんようなってん。ほんでな、わしも癌やねん。もう末期や。先生からは働くな言われてんねんけどな、家おったら、ようけ鬱と躁が来るんよ。だからマグロみたいに動いとらんと、わしも兄貴らと同じDNAやから、悪魔からの誘いが来てしまうねん。せやから、ボランティアでも何でもええねん」
今日はどこまで行くのかと聞かれ、「ちょっと頑張って、室戸まで行こうと思ってます!」と言うと、「無理無理無理!!そんなん、何言うとん!」と言って、「今日の目標は、ここ!」と勝手に目標を決められ(笑)地図まで書いてくれた。
「このセブンイレブン行ってご飯食べるやろ、ほんだらこの銭湯言ってな、ここにテント張ったら一番安全やで」と説明しながら書いてくれたのだが、あとから見返したら何がなんだかさっぱりわからず、読むのを諦めた。でも、すごく嬉しかった。
そして、その人と別れた。
5キロ程進んだところで、また手を振ってる人が見えた。
「えー!なんでですかー?!(爆笑)」
あのおっちゃんだった。
「わし車やから〜!あはははは〜」
ジュースを奢ってくれて、ベンチに座りながらまた少し話をした。
「ちょっと聞いてくれ。ほんで、点数つけて!」と言い、急に「愛することに〜疲れたみたい〜」と松山千春の「恋」を歌いはじめ、歌い終わり、自分で「はくしゅー!!!」と言って締めた(笑)
私もお礼にと、ギターを出して歌った。
すると「おおおおおー!!!」と感動してくれて、ほんまによかった、ほんまによかった、生きてたらええことあるわ、よかった…と繰り返していた。
私もなんだかよくわからないけど、めっちゃよかった。生きてたらええことあるわ、って思った。
別れ際に、車の窓から顔を出して「朝鮮語で『さようなら』はどう言うのん?」と聞かれ、「『アンニョン』って言います!」と言うと、「そうか。ほんだら、アンニョン!!」と言って、颯爽と車を走らせていった。
この人ほんまに末期癌なんかな、というぐらいに底抜けに明るい、太陽みたいなだった。