グラッシー

高知駅の近くにあるグラッシーというフォーク酒場に足を運んだ。

 

店内には竹原ピストルの写真がたくさん飾られていて、大ファンだというマスターは、ピストルさんのライブに行った際に(歌いに来てとは言わず、まず)「飲みに来てください」と書いた手紙を渡したことをきっかけに、もう10回も歌いに来てくれて友達みたいな関係になったんだと話してくださった。

東京や大阪と違い夜9時から開店し、閉店が朝4時とかだったりするので、ものすごくゆったりしている。店には常連のお客さんたちが集い、歌を歌い、皆で酌み交わし、楽しすぎる音楽の時間を過ごした。

 

高知の人は、びっくりするくらいに優しい人が多い。鍋焼きラーメンの店に入って、日本一周中だと言うと「サービスや!」とご飯代を負けてくれたり、日本一周中の看板を見て「お前すごいなあ。これで何か飲み!」と千円札をくれて「ほなパチンコ行って来るわー!」と颯爽と去っていく人なんかがいて、いちいち感動してしまう。

グラッシーでも「いっぱい食べて力つけて、旅頑張り!」とクエを使った鍋料理をごちそうしてくれた。f:id:yusunchoe:20211018102527j:image明日はどこまで行くかと聞かれ、四万十市まで行きたいのだというと、「久礼坂を自転車で行くのはだいぶきついよ。たぶん一日では無理」と満場一致。田舎は地図を見ただけではわからない大きな坂があったりするので、都会人がよくしがちな「距離だけで走行時間を見積もる」というのはほぼほぼ意味がないらしい。

お客さんの一人の野村さんが、「明日暇やき、ハイエース持っとるき、荷台に自転車乗せて四万十まで連れて行ったるよ」とおっしゃるので、お言葉に甘えて車で連れて行ってもらうことにした。

何が「自転車で日本一周」だ、と自分にツッコみたくもなるが(笑)、そもそも自分で決めた旅だ。人に甘えまくるし、ルールも変えまくるぜ!

 

その日は野村さんの職場に泊めていただくことになった。職場にはマイクスタンドとアンプ、ギターやレコードがずらーっと並べられていて、もはやスタジオみたいになっていた。

野村さんは生粋の音楽好きの人で、たくさんの凄いアーティストのことや、ギターテクニックなんかを教えてもらって、この短い時間に自分が少し成長できたような気がしている。

 

次の日、車で四万十市まで連れて行ってもらい、グラッシーのマスターの知り合いがしている「炭火屋なかわき」という居酒屋でありがたくも歌わせていただくことになった。

f:id:yusunchoe:20211018111308j:image店長の中脇さんが事前に告知をしてくれていて、「ギター担いで日本一周してるやばいやつがいる!」ということで人が集まってきてくれた。

しかもグラッシーのマスターと、ともよさんという彼女さんまで一緒に来てくださった。

ともよさんは私と同年代のお子さんのいるお母さんで、すごく優しくてかっこいい素敵な女性なのだが、酔うと巻き舌をかまして「オルラアアアァァァ!!アホンダラアアァァ!!!」とまくし立てていた。

皆がともよさんを「はちきん」と呼んでいたのでそれは何かと聞くと、「男勝りの女性」を指す土佐弁だという。

私もともよさんのような、はちきんになりたいと言うと「ゆすんちゃんは逆に『大丈夫?』って心配になる感じやな」と言われ、はちきんになることは諦めた。

 

「この旅が終わったころには、人間的にも音楽的にもまた成長してるやろうき、次また会うのが楽しみやね」

好きな人がどんどん増えていくと、その分別れるときのしんどさも増す。別れの時間がやってくる度に、毎回お葬式みたいな気持ちになる。

車の中で「これいいよ」と野村さんが教えてくれた、奇妙礼太郎の『君が誰かの彼女になりくさっても』という曲を聞いて、曲の中の「彼女」がふいに、家族や地元の人たち、東京と神奈川の人たち、まだ約十日間しかたっていない旅の間に出会った、たくさんの大好きな人たちとがっちり重なり、ふいに涙がこぼれてきた。

 

高知では一度では書ききれないすごい経験をたくさんできたので、また時間があるときに書こうと思う。

とりあえず一旦は高知とさよならをして、今日は愛媛の松山からフェリーに乗って、広島へ。