鹿の瞳

広島で仕事をしている、大学時代の後輩と会った。

約3年ぶりの再開。当時から真っ直ぐな、澄んだ瞳で人を見るところは相変わらずだったが、彼は変わっていた。

当時はメガネをかけていたが、コンタクトになっいた。何だそのよくあるパターンのイメチェンは、と思ったが、それだけじゃない。明るく、よく喋り、よく笑うようになった。

 

その子はもともと九州出身で就職のために広島に来たのだったが、「広島に来て何かあったの?」と聞くと、「広島が僕を変えてくれました!広島は、僕の第二の故郷です!」と満面の笑みで言って、私は泣きそうになった。

詳しい事情は尋ね損ねたが、そうか、広島が君を変えてくれたんだな、と思うと胸がいっぱいになった。

 

広島のおすすめのスポットを聞いてみると、「宮島にはぜひ行ってみてください!僕は宮島が好きで、49回行きました!」と行った。

いや行きすぎやろ、とツッコみたくて喉まで出かけだが、彼の真っ直ぐすぎる瞳を見て、口には出せなかった。

 

帰り際、以前その子が「先輩の歌、生で聞いてみたいです!」と言っていたので、広島からライブに来てもらうのも申し訳ないし、公園で何曲か聞いてもらおうかと思い「公園行かん?」と聞いてみると、「めっちゃ行きたいです!でも、寒いので帰ります!」と言った。

いや帰るんかーい!と心の中でしっかりツッコんだが、また彼の目を見ると口には出せなかった。

 

「先輩、今日は本当にありがとうございました!明日はぜひ、宮島に行ってみてください!」

もうそんな真っ直ぐな目でそんなこと言われたら、宮島に行かないという選択肢は無いじゃないか。なんだこいつ。その瞳で、私の言葉だけじゃなくて行き先までコントロールしてくるのか。

 

そしてまんまと、宮島に行ってしまった。

鹿がたくさんいた。f:id:yusunchoe:20211021080129j:image小鹿たちの綺麗な澄んだ瞳が、後輩のそれと重なり、一人で笑ってしまった。