諸行無常

一年あまりの間歌い続けながら、ある時から、ある一部分に対してもやもやとした気持ちを抱え続けてきた代表作「おいしいごはん」の歌詞を、ようやく書き改めることができた。
 
○修正前
「ホームレスのおっちゃんが
私をじっと見つめた
私は必死で目をそらした
見てみぬふりを貫いた」
 
○修正後
「ホームレスのおっちゃんが
私をじっと見つめた
私は何もわからなかった
見つめ返す気力すら無かった」
 
修正前を見てみよう。
聞いてる人はここで、疑問を持つのではないだろうか。
ホームレスのおっちゃんは、何故ゆすんをじっと見つめたのかと。
 
この部分、実は私もよくわからない。
というか、わかるわけがない。
何故なら、私はホームレスのおっちゃんではないからだ。
 
可能性は無限にある。
①腹減った。あの人ご飯かお金恵んでくれへんかな。
②食べすぎてお腹破裂しそう!
吐きたいねんけど袋持ってへんわ。
路上汚して掃除するのんもダルいしな。
あの人袋かなんかくれへんかな〜
③あの子、疎遠になった俺の娘と似てる…!
お金あげたい、けど持ってへん。残念!
④あの人ファッションセンス終わってるやん。ファッションに疎い人、無理。Fuck。
 
などなど。
そして歌詞の中の私は、おっちゃんにじっと見つめられたあと、
 
「私は必死で目をそらした
見てみぬふりを貫いた」
 
さらにこう続く。
 
「この日のご飯は特に
めちゃくちゃ美味しく感じた」
 
とすると、そのとき私はこう解釈したはず。
「お腹いっぱい食べれないホームレスはかわいそう」だと。
先に述べた可能性の①である。
 
しかしその考えは、ホームレスからすればとんだ偏見である。
私の薄っぺらなトップダウン方式による思い込みのせいで、②③④をはじめとした無限の可能性が打ち消されたことになる。
 
今や私は、ホームレスのおっちゃんに言いたい。
マジでごめんなさい。
 
そして修正後の歌詞を見てほしい。
 
「私は何もわからなかった
見つめ返す気力すらなかった」
 
見つめてくるホームレスのおっちゃんの意図を予想する前に、その思考ごと放棄してしまったというところだろうか。
どうだろう。偏見を持つ余力すらないほど、人生に疲れ切っている女。
うむ、こっちの方が表現としての質も迫力も増すのではないか。
 
といっても、こういう種の手応えは大体独りよがりでしかないのだが。
こんなことにこだわってる限り、人気者になることは出来ないだろうな。


とりあえず、この歌はこの歌詞でいこうと思う。
また変わるかもしれない。
諸行無常の響きは、自分の内面からも聞こえてくるということを常に忘れずにおこう。