命懸けで寝た思い出

家に帰ってきてクーラーをつけたものの、なかなか涼しくならなくてイライラしていたときに、ふと思い出したことがある。
私は大学生の頃に学生寮で暮らしていたのだが、驚くなかれ、部屋にクーラーが無かったのだ。それで昼間は皆クーラーのある教室や図書館に避難するのだが、寝るときは部屋で寝ることしかできないため、まるで生き地獄だった。
果たして、寝ている間に熱中症になる子もいた。睡眠という人間の主要な生理的行為を、命懸けでやっていたのだ。今考えたら腹がよじれる話だが、当時は笑えるはずもない。
そこで私がしていた、衝撃の策がある。私は、寝る前に布団に水を撒いていたのだ。布団にカビが生えるのでは?保冷剤を敷くとか、もうちょっとマシな対策があったのでは?と思う方もいるだろう。だが、言わせてほしい。水は一瞬で乾く。カビが生える余地もない。砂漠に水を撒いているのを想像していただければいいだろう。ただ、あまりにも暑くて寝付けないため、せめて寝付くまでの間の一瞬だけでも体感温度を下げようという狙いだ。第一、寮には保冷剤をたくさん入れられる大きい冷蔵庫が無かった。言葉通り、絶望的状況だ。
1、2、3年間は全くそのような環境で暮らした。4年になってからは同じ部屋に有産階級の娘さんがいらっしゃっため、冷蔵庫が普通の家にあるぐらいのサイズに変わり、炊飯器と印刷機が導入された。ちょっとした成り上がりである。
しかしながら、「みんな一緒の条件で我慢しようぜ!」というような訳のわからないルールのために大学的にクーラーは禁止されていたので、相変わらず「クーラーって何?ネッシーの仲間?」という具合に、それはもはや都市伝説へと化していた。
でもそのおかげで、社会人になってからの一人暮らしが快適でしょうがない。こんなに幸せな暮らしを送らせていただいて、後でつけが回ってきたりしませんか?とすら思っている。
若い頃には苦労をしておくものだな、と言いかけたが、そしたら20代のうちはまだ苦労しないといけないことになるので止めておいた。
ゆすん23歳、これからも優雅なセカンドライフを堪能していくことだろう。