大分・中津

風邪を引いてしまった。急に寒くなったし、一昨日は雨に打たれたりで、これ下手したら風邪引くな、と思っていたらまんまとやられたのだ。

しんどいし、全然前に進めず、今日はここまでにしようと思って大分の中津という街にある公園のベンチに腰掛けてギターを練習していたら、「旅してるの?」と声をかけられた。

「はい!」と答えると、「えっ女性?!男の子やと思ったわ!」

またか〜。下関で話した紙芝居のおじさんには中学生に間違われるし、私はそんなに20代の女に見えないだろうか。

 

「すごいな〜。もしかして、今日野宿?」

「はい(笑)」

「…まじか。大変やな」

「でも、慣れてるんで大丈夫です!」

「そうか…一曲聞かせてよ!」

そう言ってくれたので、久保田早紀の異邦人を歌った。声カサカサで全然上手く歌えなかったし、ギターも上手くできなかった。

「ありがとう。じゃあこれ、投げ銭!」

そう言ってカンパをくれた。

こんな歌に全く釣り合わない額で本当に申し訳ないな、と思いながらもいただいてしまった。

「じゃあ、頑張ってね!」

 

それからしばらくして、またその人が来た。

「さすがに、この寒空に置いていくの心配で戻ってきた。今日うちの事務所で寝ていき!」

 

その前に友達の家で一緒にご飯食べようよ、とお友達の家に連れていってくれた。

声をかけてくださった田染さんは、中津で「地球屋」という多国籍料理専門の居酒屋さんを営まれていて、f:id:yusunchoe:20211026133903j:image今から訪ねる友達の井ノ上さんは、店の常連さんだという。

 

家に上がらせてもらうと、井ノ上さんはめっちゃ料理してて、田染さんは「どうぞ、座って!お粗末な料理やけど、いっぱい食べていってね」と言って、リビングにでーんと座って「おい、つまみ持ってこい!」と、居酒屋の大将が常連客に指図してるという、だいぶ珍しい光景だった。

 

「風邪引いてるし、野宿する言うから、別れた後も気になってしょうがなかってん。男やったら『頑張れ!』って言うてさよならやったかもしらんけどなぁ」

 

社会に出て、音楽をやり始めたぐらいの頃から、世の中にはびっくりするくらい優しくてかっこいい人がたくさんいるということを知るようになった。

社会にとって得かどうかというのを含め、損得勘定でしか他人と繋がれない人間をたくさん見てきたこともあり、自分が傷つかないよう人間不信をベースに生きてきた私とって、こういう経験の一つ一つが奇跡のように感じてしまう。

 

「本当にめちゃくちゃありがたいんです。けど、これからもこうやって迷惑かけながら行くのかなって思うと、ただ自分が旅したいっていうエゴを振り回してるだけなんじゃないかって思えてくることもあって」とかっこ悪いけど本心を言うと、田染さんは「迷惑とか思わんって!みんな、ええことしたいだけやねん。だから迷惑なんか思わんと、自分が良くしてもらったら今度は他の人に良くしたったらええやん」と言った。

これは、高知で泊まらせてもらった人が教えてくれた「恩送り」と同じ考えだな、と思った。

やっぱりどこにいても、素敵な人が考えることは同じなのだなあ。

 

「俺も昔こんな旅やったらよかったな〜って後悔してるねん。人によってはタイムロスやって思うかもしれんけど、時間的には回り道になっても後々絶対プラスになると俺は思うねん」

 

今まで良い出会いがあったかという質問に、四国の人たちがものすごく良くしてくれた、と答えると「四国はお遍路さんがあるから、助け合いの精神があるんやろうね」と言った。

 

「お遍路さん」って、恥ずかしながら旅に出る前までは全く知らなかったのだが、四国にある八十八箇所のお寺を巡礼するという風習があって、自転車で走っているとこういう姿をした人たちがたくさん歩いているのだ。f:id:yusunchoe:20211026133959j:imageたまに自転車の人を見かけるし、車で巡る人もいるという。
f:id:yusunchoe:20211026134041j:imageこれはお遍路さんに挨拶したときにいただいた納め札というもので、霊場を回るとき、そこにお参りした印として納めることになっている札だという。

 

なので四国には、ど田舎でも民宿や定食屋がぽつぽつあってすごく助かったし、声をかけられることも多かった。

 

九州の人はどうですか?と聞くと、「九州はな、たぶんシャイな人が多いねん。実はみんな優しいんやけどな」と言った。

たしかにそうだなと思った。話しかけられることは少ないが、こちらから話しかけると皆にこにこして答えてくれる。

九州出身の知り合いが割と多いのだが、みんなここで育ったのか、と思うと妙に納得できた。

 

田染さんはもともと会社員だったのだが、どうしても飲食に行きたくて20代後半に会社を辞めて博多の店に弟子入りし、数年後に独立したという。

前の仕事も好きだったので続けたかったし、下積みは想像以上にきつくて「なんで仕事辞めたんやろう」と後悔したこともあったらしい。

今も後悔はありますか、と聞くと「今は全くない。むしろ、やらんかったら後悔してたやろうな」と言った。

 

やらない後悔よりやる後悔、か。どう考えてもやらなくていいのにやっちゃってガチ後悔することもたまにあるけれど、やっぱり基本はそうだよなあと思う。

私がもし、「自転車で日本一周しない」という世界線を選んでいたら、人生はどう変わっていただろうか。

まあ、普通に楽しく生きてただろうとは思う。こんな旅をしている間に本でも読んでおけばもう少し賢くなっていたかもしれないし、働いていれば老後の不安が少し和らいでいたのかもしれない。

でも、それだけじゃきっと、自分は物足りないのだろう。

頭で考えるだけじゃわからないこと、今生きているという実感をくれること、そんなものに魅力を感じてしまうのだろう。

f:id:yusunchoe:20211031003100j:image別れ際、「これ、お守り!」と井ノ上さんがくれました。

どう見てもお守りには見えなかったけど、井ノ上さんが思いを込めてくれたんだろうな〜

 

明日は大分の有名な温泉地、別府へ。