フライト

ロバート・ゼメキス監督の『フライト』という映画を見た。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の監督だ。私は、久々に映画を食い入るようにして見た。


主人公のウィトカーは、凄腕パイロットだ。操縦していた飛行機がいきなりぶっ壊れて急降下を始め、もう無理だという状況下で最後まで諦めず、冷静な判断と指示を続ける。そして本当になら全滅していたはずの乗員と乗客102人中96人の命を救い、英雄として讃えられる。
しかし、この後にウィトカーの体からアルコールとコカインが検出されていたことが判明する。ウィトカーはアルコール中毒者だったのだ…
(映画の中で、なぜかアル中ということだけがやたら強調されてて、私は「え、コカインもやばいよな?」とずっと疑問だった。そこはよくわからない。文化の違いだろうか)


まあそれで色々とあって最後は刑務所に入るのだが、主人公が刑務所に入るのにこんなにも心が救われる映画も珍しいなと思った。
人間は肉体的に自由になること、気持ちよくなることだけが幸せなんじゃないんだ。むしろ心が縛られているときほどその自由な肉体が暴走し始めて、結果的にどんどん不自由になっていく。ウィトカーはまさにそんな状態で刑務所に入り、身体的には制約がかけられたのかもしれないけど、アル中を克服したことで心の自由を手に入れたのだ。こんな簡単な言葉で総括できるような映画ではないが、私はそういうふうにまとめた。


最後、絶縁していた息子が面会に来る。ウイトカーがまだ逮捕される前に家族に会いに行ったとき、父親に向かってボロクソ言っていたあの息子が、最後は父親のことを許し、その上「自分の出会った最高の人」と表現していた。さすがに評価上がりすぎだろとは思ったが(笑)それにしても、なんて優しい息子なんだろう。この人はきっと、家族であれ誰であれ、人をステータスとか能力で見るなんてことは一切しないし、ただその人の「今の生き様」を真っ直ぐに見るんだろうな。


でもその息子が父に向かって最後に投げかけた質問「お父さんは何者?」には正直「は?」ってなった(笑)いやいや、もうちょい具体的な質問したってよって。でもウィトカーはそれに対して、ニヤッとしながら「いい質問だ」と言っていたから、きっと親子の間では何か通じるものがあるんだろうな。ウィトカーがそれに何と答えたのか分からないし、私には想像にも及ばないけど、彼が確固たる自分を手にしたことだけはわかった。


あと一番ショッキングだったのは、裁判の直前にまんまと飲み散らかしたシーンだ。
今までいろんな映画を見てきて、ただ「お酒の瓶を持つ」というだけのシーンで目を覆い、悲鳴を上げたのは初めてだった。
とにかく内容がすごく深いけど、万人におすすめできる映画だなと思った。