3日間のできごと

3日前から喉が尋常じゃなく痛みだしたので病院に行った。

最初は病院Aに行った。受付で熱を測ると、平熱だった。しかし混雑していたため、2時間待たされた。その間にだんだん熱っぽくなってきて、やっと診察室に通されたかと思うと、そこでまた熱を測られ、案の定37.3度あり、「熱あるやん」と言われ、熱あるやつ専用診察室みたいなところに連れていかれた。そこでPCR検査をして、また1時間ほど待たされた。

そして1時間後、コロナではないということがわかり、ようやく診察に入った。

そこで、お医者さんから衝撃的な言葉を聞かされた。

「なんか扁桃腺めっちゃ腫れてんねんけど、ここでは専門外やから、病院Bに紹介状書いたのでそっち行ってくださいね~」

え、今から?3時間の待機を経て?

私は心底驚いたが、とりあえず早く行って早く薬もらって早く帰りたかったので速攻で待合室に向かった。

医者が病院Bに連絡してくれている間、待合室で待っていたら知り合いの看護師さんが二人やってきた。知り合いの看護師さんが二人いるってどうゆうこと?という感じなのだが、この病院はちょっと特殊で、小学校時代の友達や先輩後輩のお母さんだらけなのだ。

「ゆすんお母さんにそっくりやな~!昔はお父さんに似てたのに。お母さんに似てよかったな~」

それは心底思う。

「ゆすん背大きなったな~!ゆすんの記憶、小学校で止まってるからびっくりしたわ」

この年になって「大きくなった」と言われることはあまりない。

「病院Bの場所わかる?あのな、駅まで行くやろ。ほんだらな、ガストあるやん。そこの角をな…」

あの、看護師さん。ありがたいのですが、今の時代はグーグルマップという便利なものがあるのをご存じですか。

そうこうしてるうちに、お医者さんが紹介状を持ってきてくれた。

お礼をして自転車で病院Bに向かおうとすると、「ゆすん、病院の車出してくれるって言うてるけど、どうする?病気やねんから、自転車で行くより車の方がええと思うよ?乗っていき!」

私は、「帰りはどうしたらいいんですか」という質問をする隙も与えられず、車に乗せられることになった。

送迎の車が来て、乗るともう一人女性がいた。

その人も病院Aから病院Bへ島流しされる者の一人らしい。

車の中でその女性はめっちゃ喋っていた。

「今日入院や言われて、さっき旦那に電話してな、なんか病院Bに入院せなあかんらしいわ~言うたらな、ほうか、ほなのんびりしてらっしゃい言うねん。もっとなんかある思うねんな〜かける言葉」

という壊滅的にオチのない話を15分ほどまくし立てていた。

病院Bについて、招待状を渡したら速攻で診察室に向かった。

診断結果は、扁桃周囲膿瘍という病気だった。原因はよくわからないが、おそらく短期間にお酒を飲みすぎたというのが一つあるんじゃないかと思う。

腫れ方が普通じゃないので、夜寝てるときに呼吸困難になる恐れがあるということで本当はすぐに入院した方がいいと言われたが、入院費いくらですか?とお金無いですアピールすると、とりあえずCT検査してみて決めましょうということになった。

採血をした後、CTスキャンを初めて体験した。

医療ドラマで良く出てくる、白くて丸いやつに入っていく、あれだ。私はちょっとうきうきして、ディズニーのアトラクションに乗ってるみたいなテンションでそれを体験した。

一回丸いやつに入って出てきたら、看護師さんが「ちょっと点滴してもう一回やりますね~」と言ってきた。なんで点滴してもう一回やるのかよくわからなかったが、私は左腕を伸ばした。私は注射が、めちゃくちゃ苦手だ。いつも思うのだが、注射針を刺される前の気持ちは、バンジージャンプの直前の気持ちとすごく似ている。

「あっ、ちょっまって!まだ、心の準備が、あっああああああ!!!!!!」

というかんじだ。できるだけやりたくない。しかし看護師さんは5分ぐらい私の腕を触り続けて、ようやく刺してくれたかと思うと、「ごめんなさい、ちょっと一回抜きますね」と言って注射針を抜いた。何ということだ!抜くのはいいが、薬入れてないじゃないか!ということは…

「もう一回ちくっとしますね~」

おい、嘘だと言ってくれ!

私はこの時点でちょっと発狂しかかっていた。しかし、もう一回だけだと思って耐えた。

ブスッ…

「ふう…」

私は息をついた。すると、看護師さんは言った。

「本当にごめんなさいもう一回抜きますね!」

マジかよ!!!私はいよいよ絶望の淵にいた。

2回失敗した看護師さんが、もう一人の看護師さんを呼んできた。

その看護師さんは、私の腕を見て、「あーこれムズいな」と言った。

そうか、私の腕は、難しいのか。なんか恥ずかしいじゃないか。

するともう一人、おじいちゃん看護師がやってきた。若者2人よりはなんとなく安心感があった。おじいちゃんは私の右手のどっかを指さして「はい、これ第一候補」と言った。

いや、もう他に候補探さなくていいです、早くやってください。というかんじだ。

第三候補ぐらいまで探したあと、ようやく定まったらしい。本日最後の針刺しの刑が無事終わった。一日で4回腕に針をぶっ刺されたのは初めてだ。

ここまでくるとなぜか達成感があった。やっとバンジージャンプを飛べたというかんじだ。

点滴が終わった後、私はまたCTスキャンに通された。

CT検査の結果、膿が少しあって危ないので、木曜日まで薬飲んで良くならかったら即入院しましょうということになった。

家に帰ろうとしたとき、私は自転車が病院Aにあることを思い出した。

帰りの送迎無いんやったら、絶対自転車で行った方がよかったやん!

私はふらふらの身体で30分歩いて家まで帰った。

朝10時半に家を出て、帰ったら18時半になっていた。一日が病院で潰れた。

テーブルを見ると、きな粉のおはぎがあった。

普通、扁桃周囲膿瘍になった人は喉の激痛により固形の食べ物を食べることすらままならないというが、このときの私の「おはぎが食べたい」という気持ちは、喉の痛みを優位に超えたらしい。嚥下するたびに身体をうねらせながら悶える私の姿を見て、妹は「いや、おかゆとか食べたらいいやん…」とドン引きしていた。その後母が帰宅し、おはぎを食べている私を見て「あんた、入院しなあかんレベルちゃうかったん」と呆れかえっていた。

そのとき、私は本当に食べることが好きなのだろうと思ったが、そんなことを考えたことをのちに後悔することになる。

その夜、私は余裕をこいてネットフリックスで「ジョーズ」を見ていた。

サメの専門家みたいな人が船の下にもぐりこんで、破壊された部分からサメに襲われて死んだ人間の肥大化した顔が出てきたときに、私は「ぎゃあああああ!!!!」と叫んでしまった。そのときから、私の喉は急激に痛み出したのだ。私は慌てて痛み止めを飲んだが、なかなか効かなくてしばらく悶え苦しんだ。完全に映画のチョイスをミスってしまった。死ぬほど痛くて、涙が出てきた。

結局私は5時間ごとに痛み止めを飲み、唾が飲み込めないので何度も洗面所まで行き、ベッドの上ではひたすら天井を眺めながら久石譲のピアノリラクゼーションを聞いて朝を迎えた。

病気の苦しみって、こうなんだなということをまざまざと思い知った。

その後はしっかり薬を飲んで、順調にのどの痛みも引いていった。

今日また病院に行ったら、また採血があった。この数日で何回針刺されるの。

結果は、まだ数値は良くないけど、腫れは引いてるので入院しないで大丈夫ですとのこと。

会計をして、家に帰ろうと自転車のペダルを踏み出した。

そのとき、スマホがポケットから滑り落ちた。慌てて拾い起動ボタンを押したが、画面が付かなかった。2か月前に買い換えたのに。その前のギャラクシーは半年で壊れたのに。お金ないよ。悲しいよ。

なんて日だ!

この数日、私はたくさん絶望した。

でももう一つ思ったことは、健康な状態って本当に有難いことなんだなあと。

唾を飲み込むことがこんなに苦しかったことは未だかつてなかったし、今まで何も考えず無意識でゴクンとしていたのだと思うと、不思議な気持ちになる。

喉が痛いとか、歯が痛いとか、お腹が痛いとか、体のどこかに意識を向けなくても、身体の外のことに集中して何かを楽しめるということは、幸せなんだろう。

ものすごく苦しかったけど、このことは一生忘れないでおこう。